4)「原子力発電」
例えば、原子力発電で主に用いられている燃料である質量数235のウランについて見てみましょう。235Uなどの質量数の大きな原子核が中性子を捕獲して核分裂を起こすと、新たな二つの原子核が生まれると同時に、2個ないし3個の中性子と核子の結合エネルギーが放出されます。この放出された中性子がさらに次の原子核に入射したり、入射せずに止まったります。この時、その中性子が235Uに入射した場合、次の核分裂反応を誘起します。
(235Uの核分裂連鎖反応 Wikipediaより 作者によりパブリックドメインである宣言がされている)
核分裂により放出される高速中性子は、実は次の核分裂を引き起こす熱中性子となるためには速すぎて適しませんので、適当なエネルギーをもつようになるまで減速させる必要があります。今回事故を起こした福島第一原子力発電所は沸騰水型軽水炉という方式の原子炉なので、水(純水)が冷却剤と減速材を兼ねています。
減速された中性子が235U以外の原子核、例えば238Uに入射した場合、その中性子はある確率に従い吸収されてしまうので、235Uの連鎖的核分裂には寄与しません。また、中性子がほかの原子核に入射したり、原子核への入射をせずに熱中性子となれば、その場合も235Uの連鎖的核分裂には寄与しません。
福島第一のような沸騰水型軽水炉では、通常運転時は、冷却剤かつ減速材である純水の流量の増減、炉内圧力の調整による炉内蒸気ボイド(泡)量の増減、そして中性子を吸収する制御棒の挿入などを用いて出力調整を行い、上の235Uの核分裂の連鎖反応を制御してゆっくりと安定して継続させようとします。(3号機にはプルトニウムも混ぜたMOX燃料が用いられています。)
235Uの連鎖的核分裂反応が安定して起きると、莫大なエネルギーが発生します。核子の結合エネルギーの放出、核分裂の際に「質量欠損」が生じるからです。アインシュタインが特殊相対性理論の論文で導いた、
E=mc2
という式を見た事がある方も多いのではないでしょうか。この式が特殊相対性理論の全てを語る訳ではなくその極々一部に過ぎないものですが、非常に重要かつ有名です。落書きやTシャツのロゴや、イレズミをしている人さえも見た事があります。
この式の意味は、質量とエネルギーの等価性を示すものです。燃料ウランの核分裂の際の質量欠損により生じた莫大なエネルギーは熱エネルギーとして水煮伝わり、水は蒸気となります。その蒸気でタービンを回して(運動エネルギーとなり)最終手金は電気エネルギーを発生させる、というのが福島第一原子力発電所(沸騰水型軽水炉)の発電機構の簡単な説明です。
(Wikipediaより 作者によりパブリックドメインである宣言がなされている)
また、炉内に残された燃料は、原子炉が運転停止していたとしても自発的に核分裂を起こします。当然、核分裂が発生すると熱エネルギーが発生し、燃料棒自身を加熱します。これが、常に燃料棒を冷やし続ける為に連日放水を行っている理由です。
発熱により燃料棒は次第に高温になります。燃料棒は二酸化ウラン押し固めたペレットものをジルコニウムを主成分とする合金(ジルカロイ)で包んだものの集合体です。このジルカロイによる包みを燃料被覆管と呼び、原子力発電所から放射性物質を放出する事を可能な限り減らす為の5つの壁のうちの第1の壁と呼ばれてもいます。
原子炉内の燃料は常に冷却されていなければなりません。つまり、福島第一原子力発電所の原子炉の場合は、冷却剤である水を喪失することは絶対にあってはならないことでした。しかし、震災の被害により外部電源や補助電源を失い、冷却のための水の循環が絶たれてしまい冷却剤を喪失しました。
燃料棒の発する熱エネルギーを受け取らなければならなかった冷却水を喪失すると、熱エネルギーは本来の熱の受取手を喪失してしまった燃料棒自身に蓄積されていき、徐々に温度が上昇します。高温になり、具体的には燃料被覆管のジルカロイの融点を超えてしまうとと、燃料被覆管が溶け出してしまいます。
燃料被覆管が溶け出すと、中のウランや反応によって生じた少量のプルトニウム等の大変危険な放射性物質が水と接触しますので、その水は高濃度の汚染水となってしまいます。
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