2011年5月3日火曜日

2011年4月20日水曜日

美味しいものを食べる幸せ

放射性物質による食品汚染で世間は騒いでいるけど、
それを食べさせられるのは人間だけじゃない。


小さい子達に何事も無ければ嬉しいのだけど…

2011年4月18日月曜日

はみだしもの


木の幹からも、春の知らせ。




この春も楽しい事がいっぱいありそうだな、と楽しみにしていたら、
すぐに蝉の大合唱が始まり、夏の到来を告げる。

今年は海にも行きたいな。

2011年4月16日土曜日

食品、飲料、土壌などからの放射性物質の検出方法について〜放射性ストロンチウムが今になって検出された理由〜

6)食品、飲料、土壌などからの放射性物質の検出方法について

さて、「なぜ今更ストロンチウムが話題になったのか」という話にようやく入ります。
2)の「放射線」で説明した様に、放射性物質は様々な種類の放射線を放出します。
先ず、大々的にニュースになっている二大巨頭のヨウ素131とセシウム137についてその崩壊の仕方を確認してみましょう。



(ヨウ素131及びセシウム137の崩壊 Wikipediaより 著作権フリー、 数値データ原典は[5])
[5]Ervin B. Podgršak Modes of Radioactive, RADIATION PHYSICS FOR MEDICAL PHYSICISTS, Biological and Medical Physics, Biomedical Engineering, 2010, 475-521
ヨウ素131もセシウム137もベータ崩壊をする放射性核種です。
それらの崩壊が起こった後も、原子核には過剰なエネルギーが残存しているので、安定な状態になろうとします。その過剰なエネルギーはγ線として放出されます。
そのγ線の持つエネルギー量は、それぞれの核種によって特有のピークがあります。
上の図より、ヨウ素131ならば364.489[keV]に、セシウム137ならば0.6617[MeV]に固有の特徴的なピークがあると見る事が出来ます。
検出対象からのγ線をゲルマニウム半導体検出器を用いて検出し、そのエネルギースペクトル分析することによって、検査対象からどれだけの放射線が、どの放射性核種から放出されているのかを測定していきます。
ゲルマニウム半導体検出器の検出分解能は非常に優れている(飲料水や牛乳の検出下限値で 2[Bq/L]など[10] )ので、専門機関が適切な分析をすれば、ヨウ素131やセシウム137による人体に有害な汚染度の食品・飲料は必ず検出可能と言えます。
また、ヨウ素131の拡散が起こってしまった場合は、牛の現乳の汚染に直ちに影響を及ぼしますが、深刻な問題を引き起こす汚染レベルの現乳は、NaIシンチレーションサーベイメータという可般装置を用いた簡易測定によって(飲料水や牛乳での検出限界値で100~300[Bq/L])生産現地で数分で検出する事が出来ます [10]
食品の場合は、検出対象の試料から脱水し、それを灰化させるという前処理をしてから測定を始めますが、ゲルマニウム半導体検出器による測定は10分から30分程で完了するので、ヨウ素131やセシウム137による汚染は比較的簡単に、かつ短時間で行う事が出来ます。
(注:Ge半導体検出器のバックグラウンドの測定には数日を要します。)
事実、ヨウ素131やセシウム137の検出のニュースは事故後、比較的短時間で報じられたことは記憶に新しいものです。

詳しくは、下記を参照してください。
[10]財団法人 日本分析センター http://www.jcac.or.jp/
また、食品ならば厚生労働省、環境調査ならば文部科学省がその測定方法や条件を公開しています。
                                           

では、ストロンチウム90の検出のニュースが、原子力発電所での深刻な水素爆発によって
放射性物質が大量放出されてから一ヶ月ほど経ってから報じられたのはなぜでしょうか。
それを説明するには、やはりストロンチウム90という核種がどういった崩壊をしてどのような放射線を放出するかについて考えなければなりません。

次の図は、ストロンチウムの崩壊を示す式です。(TeXでつくられているものをWebより拝借。問題ないと判断し、こっそりと…)




ストロンチウム90の崩壊自体はβ崩壊ですが、先に紹介したヨウ素131やセシウム137と明らかに違うことが一つあります。それは、β崩壊をしたストロンチウム90の原子核がγ線を殆ど放出しないということです。
ヨウ素131やセシウム137は、それらの放射性核種に特有のエネルギーのピークを持ったγ線を放出するので、そのγ線スペクトル分析をすることで検出出来ましたが、ストロンチウム90はそのような特徴的な固有のγ線を放出しないのです。ですから、他の検出・測定方法を検討しなければなりません。
その方法は、極めて複雑な行程と、長い期間を必ず必要とします。行程について詳しく知りたい方は、資料 [11][12] を参照してください。
要約すると、まず野菜や飲料から土壌などの測定対象試料から、ストロンチウムを化学的に分離します。さらにストロンチウム90が崩壊して生まれるイットリウム90との間に放射平衡という状態が成り立つまで、およそ1ヶ月という長い期間待ちます [12]
放射平衡が成り立つということは、ストロンチウム90からの放射とイットリウム90からの放射が一定の比率を保つ状態にあるということを意味します。そのような状態になってから、イットリウム90のみを抽出しそこからのβ線を液体シンシレーション計数装置やGeiger-Müller計数管などの装置で測定し、さらに存在比率からストロンチウム90の量を計算します。
特定の元素のみを野菜や飲料や土壌粒子中から抽出する作業がそもそも非常に難しく複雑な行程が必要ですし、計測の為にはおよそ一ヶ月という期間、待たなければならないのです。そうしなければ測定することが不可能です。
このことを踏まえると、次の事が言えます。
事故から一ヶ月経ってから他の放射性物質より遅れてストロンチウム90の検出がニュースとして報じられたこともあり、「政府が今まで隠していたのではないか?ストロンチウム90はそれほどヤバい物質なのではないだろうか?」という声が至る所で散見されました。
しかし「政府や諸機関がストロンチウム90の検出を隠していた」という主張は科学的に完全に間違い、悪質なデマです。そのような主張をする人がいれば、科学的な事を全く知らないのにも関わらず、ただ批判がしたいだけ、騒ぎたいだけの悪質な行為をする人と言い切れます。
ストロンチウム90の正確な検出・測定には一ヶ月ほどかかるものなのです。それよりも短期間で測定する方法は確立されておらず、存在しない、そういう物質なのですから、事故がおきてからちょうど一ヶ月ほどで検出がニュースで報じられた事自体は科学的な見地から言えば非常に合理的であると判断出来ます。文部科学省が事故発覚後直ちに正しい測定方法に従いって測定を試みている、ということの裏付けにもなります。

ただし、原子力発電所で多量の放射性物質の漏洩事故が発生したときに、ストロンチウム90が必ず相当量放出される放射性核種であることはチェルノブイリでの事故や、大気圏核実験などの様々な環境への影響の調査から明らかになっている、科学者・専門家の間での常識と言って差し支えの無い事実です。
多量のヨウ素131とセシウム137の放出が検出されれば、その段階でストロンチウム90も必ず一緒に放出されていると判断して問題ありません。実際に、ニュースで報じられる前から、一部の科学者・専門家は放射性ストロンチウムについて「必ず出ています。今は検出されていないだけです。少し時間がかかります。」と主張していました。
ですから、政府、保安員、東京電力などは放射性ストロンチウムの放出が確実である事は認識していたにも関わらず、その事前の警告や周知を怠っていたとも言えます


(余談)
放出が確実であると想定されながらも検出が遅れた物質としてはプルトニウムがあります。
プルトニウムの放射性核種を検出・同定する測定には通常数週間かかりますが、検出がニュースとして報じられた際も、ストロンチウムと同じく「政府がプルトニウムの事を今まで隠していたのではないか?」という声がありました。検出は放出から遅れます。隠していたのは検出ではなく、放出の可能性が確実視されていたことであって、叩くべきは危険性の事前の警告と周知を怠った事です。

[11]「放射性ストロンチウム分析法」 文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力安全課防災環境対策室 平成15年(http://www.kankyo-hoshano.go.jp/series/lib/No2.pdf)
[12]「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」 厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課 平成14年(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf)

5)「原子爆弾」
「原子爆弾」とはどのようなものでしょうか。


ウランやプルトニウム等の燃料となる原子の核分裂連鎖反応を厳重に制御し、その際のエネルギーを少しずつ、継続的に取り出すのが原子力発電所です。
それに対して、ウランやプルトニウム核分裂連鎖反応を極めて短い時間の間に一気に起こす事によって瞬間で莫大なエネルギーが放出させるものが原子爆弾です。
原子爆弾のような爆発的反応を実現するためには、兵器グレードの非常に純度の高い235Uや、239Puが必要です。
しかし、原子力発電所で用いられている燃料はそのような爆発を阻害してしまう不純物である238Uが殆どです。例えば、エネルギーを取り出すために必要な235Uは軽水炉の燃料なら3~5%程度[9]で残りは不純物です。これは核兵器に用いられる90%以上の高純度を誇る兵器級高濃縮ウランには到底及ばないもので、そもそも原子力発電所で用いる燃料が核兵器のような爆発的な反応を起こす事は原理的に不可能なのです。
(注:高温のジルカロイと水の接触によって生じた水素ガスや、放射線によって水が分解されて生じた水素ガスによる水素爆発は起きます(起きました)が、これは核兵器の爆発とは根本的に異なるものです。)
ただし、水素爆発や水蒸気爆発(溶出した非常に高温の燃料が容器内の水と接触することにより、接触した水が爆発的に水蒸気となる反応)が起こる可能性は否定出来ませんので、そのような爆発が起こってさらなる自体の深刻化が現実のものとならないようにしてほしいものです。
[9]各燃料製造会社や再処理施設の公表資料等多数

原子力発電

4)「原子力発電」
例えば、原子力発電で主に用いられている燃料である質量数235のウランについて見てみましょう。235Uなどの質量数の大きな原子核が中性子を捕獲して核分裂を起こすと、新たな二つの原子核が生まれると同時に、2個ないし3個の中性子と核子の結合エネルギーが放出されます。この放出された中性子がさらに次の原子核に入射したり、入射せずに止まったります。この時、その中性子が235Uに入射した場合、次の核分裂反応を誘起します。


(235Uの核分裂連鎖反応 Wikipediaより 作者によりパブリックドメインである宣言がされている)
核分裂により放出される高速中性子は、実は次の核分裂を引き起こす熱中性子となるためには速すぎて適しませんので、適当なエネルギーをもつようになるまで減速させる必要があります。今回事故を起こした福島第一原子力発電所は沸騰水型軽水炉という方式の原子炉なので、水(純水)が冷却剤と減速材を兼ねています。
減速された中性子が235U以外の原子核、例えば238Uに入射した場合、その中性子はある確率に従い吸収されてしまうので、235Uの連鎖的核分裂には寄与しません。また、中性子がほかの原子核に入射したり、原子核への入射をせずに熱中性子となれば、その場合も235Uの連鎖的核分裂には寄与しません。
福島第一のような沸騰水型軽水炉では、通常運転時は、冷却剤かつ減速材である純水の流量の増減、炉内圧力の調整による炉内蒸気ボイド(泡)量の増減、そして中性子を吸収する制御棒の挿入などを用いて出力調整を行い、上の235Uの核分裂の連鎖反応を制御してゆっくりと安定して継続させようとします。(3号機にはプルトニウムも混ぜたMOX燃料が用いられています。)
235Uの連鎖的核分裂反応が安定して起きると、莫大なエネルギーが発生します。核子の結合エネルギーの放出、核分裂の際に「質量欠損」が生じるからです。アインシュタインが特殊相対性理論の論文で導いた、 
E=mc2 
という式を見た事がある方も多いのではないでしょうか。この式が特殊相対性理論の全てを語る訳ではなくその極々一部に過ぎないものですが、非常に重要かつ有名です。落書きやTシャツのロゴや、イレズミをしている人さえも見た事があります。
この式の意味は、質量とエネルギーの等価性を示すものです。燃料ウランの核分裂の際の質量欠損により生じた莫大なエネルギーは熱エネルギーとして水煮伝わり、水は蒸気となります。その蒸気でタービンを回して(運動エネルギーとなり)最終手金は電気エネルギーを発生させる、というのが福島第一原子力発電所(沸騰水型軽水炉)の発電機構の簡単な説明です。


(Wikipediaより 作者によりパブリックドメインである宣言がなされている)
また、炉内に残された燃料は、原子炉が運転停止していたとしても自発的に核分裂を起こします。当然、核分裂が発生すると熱エネルギーが発生し、燃料棒自身を加熱します。これが、常に燃料棒を冷やし続ける為に連日放水を行っている理由です。

発熱により燃料棒は次第に高温になります。燃料棒は二酸化ウラン押し固めたペレットものをジルコニウムを主成分とする合金(ジルカロイ)で包んだものの集合体です。このジルカロイによる包みを燃料被覆管と呼び、原子力発電所から放射性物質を放出する事を可能な限り減らす為の5つの壁のうちの第1の壁と呼ばれてもいます。
原子炉内の燃料は常に冷却されていなければなりません。つまり、福島第一原子力発電所の原子炉の場合は、冷却剤である水を喪失することは絶対にあってはならないことでした。しかし、震災の被害により外部電源や補助電源を失い、冷却のための水の循環が絶たれてしまい冷却剤を喪失しました。
燃料棒の発する熱エネルギーを受け取らなければならなかった冷却水を喪失すると、熱エネルギーは本来の熱の受取手を喪失してしまった燃料棒自身に蓄積されていき、徐々に温度が上昇します。高温になり、具体的には燃料被覆管のジルカロイの融点を超えてしまうとと、燃料被覆管が溶け出してしまいます。
燃料被覆管が溶け出すと、中のウランや反応によって生じた少量のプルトニウム等の大変危険な放射性物質が水と接触しますので、その水は高濃度の汚染水となってしまいます。

核分裂

3)「核分裂」
各種放射線、特に代表的なもの(α線、β線、γ線、中性子線、X線) について簡単な説明をしました。
その次に、原子力発電の本質に迫るため、「核分裂」という現象について考えます。

「核分裂」とは、一般的には、大きな質量数を持つ原子番号の大きな原子(特に、ウランやプルトニウムが重要です。)の不安定な原子核が、ヘリウムの原子核より大きな原子核を1つ以上放出して分裂し、2個以上の新たな原子核に変わることを指します。ただし、ヘリウムの原子核を放出するα崩壊もこの核分裂に含める場合もあるようです。
次のウラン原子の核分裂を挙げ、その例を見てみましょう。


(235Uの核分裂反応の一例、Wikipediaより 作者によりパブリックドメインである宣言がされている)
青色の大きな丸235U(質量数235のウラン)原子核に対して、水色の小さな丸で表される中性子が入射すると、その中性子が持つエネルギーに応じたある確率でウランの原子核がその中性子を捕獲します。熱中性子を捕獲したウランの原子核は、およそ83%の確率で核分裂反応を起こすか、残りのおよそ17%の確率で核分裂反応を起こさずにγ線を放出して236Uとなります[8]
一つの例として、上の図ではたまたまクリプトン(92Kr)とバリウム(141Ba)に分裂していますが、他にも様々な放射性生成物へと分裂します。ウランの核分裂生成物の中には半減期が極めて短いものもあり、そのような核種は直ちに崩壊し、次の核種へと変化していきます。
特に、原子力発電所を運転して出力を安定させ長期間運用した場合、炉内の燃料ウランが核分裂及びその核分裂片がさらにβ崩壊して生成された物質のうち大きな割合を占めるものは、放射性のクリプトン、キセノン、セシウム、ヨウ素、ストロンチウム、ジルコニウム、プロメチウムなどがあります。
福島第一原子力発電所では、震災発生までは一号機から三号器までは安定した運転を継続していましたから、制御棒の全挿入による運転停止(スクラム)に成功した時点で、炉内にどれだけの放射性物質が存在していたかは計算により見積もることが可能です。
各炉の運転状況によってそれは多少異なるものですが、いずれにせよセシウム137とストロンチウム90はほぼ同量存在していたと考えられます。従って、事故発生からおよそ一ヶ月たった今になってストロンチウム90が大量に放出されたわけではなく、ヨウ素131やセシウム137の大量放出が確認されたとすれば、同時にストロンチウム90も放出されています。
[8]原子力百科事典 ATOMICA 原子核物理の基礎(4)核分裂反応

放射線

2)「放射線」

「放射線」という単語の意味については、広義のものから狭義のものまで様々な定義がありますが、今回は電離作用(原子の軌道電子をはじき飛ばし、原子を陽イオンと電子に分離する作用)を持つ高エネルギーの粒子線及び電磁波にについて考えます。
放射線には様々なものがありますが、原子力発電所で事故が起こった場合に我々が注意しなければならない放射線は次のようなものです。(本当はもっとたくさんの崩壊モードがありますが…)
・高速で飛び出す粒子によるもの
 アルファ線(α線)、ベータ線(β線)、中性子線
・特定の波長の電磁波によるもの
 ガンマ線(γ線)、
 エックス線(X線、放射線医療行為と被曝量の比較の話があったので)
それぞれについて、一つずつ見ていきましょう。
                                           

まずα線とは、不安定な原子核がα崩壊を起こしたときに放出される放射線です。


(Wikipediaより 著作権フリー素材)
α線は中性子2個と陽子2個で構成された、すなわち質量数4のヘリウムの原子核(α粒子)が、非常に高いエネルギーを持って飛び出すものです。身近な所では、空気中に含まれるラドンという気体がα線を出すので、人間は常に皮膚や肺がラドンのα線によって被曝しています。

飛び出したヘリウムの原子核(α粒子)は、高い運動エネルギーを持ち、かつ電子を持たないという非常に不安定な状態(エネルギーが高い状態)にあるため、より安定な状態(エネルギーが低い状態)になるために、周囲の原子から電子を強奪して自分のものにしようとします。これが先に述べた「電離作用」です。飛び出したα粒子は周囲の原子から電離作用をする度に、その運動エネルギーを失っていきます。
α線の透過力は低く、空気中では数cmで止まる、あるいは紙一枚でも止められる程度ですから、まとまった量のα線源となる放射性物質が物理距離的に非常に近くにある場合(一般人にとっては考慮の必要のない極めて特殊な状況です。)を除いて外部被曝の心配は無いと考えてよいでしょう。
例えば、皮膚に付着したα線源となる放射性物質が皮膚に付着し、α線による被曝を受けたとしても、α線は細胞分裂をしない既に死んでいる細胞(角質層)で止まり、それよりも内部へは到達出来ません。
また、α崩壊をする核種の半減期は非常に長いものが多いので、万が一多少皮膚に付着したとしても(そもそも、一般の人にそのような状況が生じるとは考えられませんが)落ち着いてシャワーを浴びて洗い流すだけで十分に被曝を避ける事が出来ます。
ただし、α線を放出する放射性物質を体内に入れてしまった場合は事情が一変します。α粒子が持つエネルギーは放射性核種によって異なるものの、およそ3〜7[MeV][3] [4] という非常に大きなものですから、その粒子が運動エネルギーを失うまで、わずかな距離の飛程において周囲の大量の原子に電離作用を及ぼします。
平均して5[MeV]という数字を見て意味を理解する人は限られているとは思いますが、α線が通過してしまった細胞及び染色体はズタズタに破壊されるものだと理解してください。
α線を放出する放射性物質は、とにかく体内に入れてはいけません。
また、α崩壊をするような放射性物質の多くは、重金属としての毒性そのものの悪影響が大きいものが多いとされています(プルトニウムやポロニウムなど)。従って、各食品の放射性物質の各核種の検出量の結果の数値を見て、プルトニウムやウランなどの数値が高いものは口にしないことをお勧めします。

                                           
次にβ線です。(β-崩壊とβ+崩壊と軌道電子捕獲のモードに触れるにとどめておきます。)
次の図はβ-崩壊のイメージ図です。





(Wikipediaより 著作権フリー素材)
β- 崩壊は、放射性同位体のうち、中性子過多の原子核で起こるものです。
具体的には1個の中性子が、負の電荷をもった1個の電子(β粒子)と1個の反電子ニュートリノを放出し、正の電荷をもった1個の陽子に変化するもので、高速で飛び出してくる電子の流れが「β線」と呼ばれる放射線です。
他にも、β+崩壊(1個の陽子が1個の陽電子と1個の電子ニュートリノを放出して中性子に変化するする)や、軌道電子捕獲(原子核にある陽子が軌道上の電子を捕獲して中性子に変化し、電子ニュートリノと特性X線を放出する)などもありますが、この辺りの話は理解出来なくても全く問題ありません。
β- 崩壊が起こるのも、α崩壊と同様に、やはり不安定な原子核が不安定な状態から安定な状態になろうとするからです。そのような状態の変化が実現した時、原子核が失った不安定さ(=エネルギーの差分)を、代わりに放出される高速な電子などが引き受けているのです。
今回、最も話題になっている放射性同位体であるヨウ素131やセシウム137は、ベータ崩壊による β線が主に問題となる核種です[5]。また、β粒子といっても、それは様々な値のエネルギーを持つものであり、同じ放射性核種でも放出されるβ線のエネルギーは様々で広いエネルギーバンド(連続的なエネルギースペクトル)を持つことに注意しなければいけません。



(ヨウ素131及びセシウム137の崩壊図 Wikipediaより 著作権フリー、 数値データ原典は[5])
β線は電荷を持った粒子なので、その移動の過程で物質中の原子核(正の電荷を持つ陽子を含むので、クーロン力(静電気力)を発生させる)や、軌道電子と影響を及ぼしあいます(いきなりクーロン力、静電気力と言われてもわからないでしょうが、身近なものとして、下敷きで髪の毛をこするとサイヤ人みたいになれるのもこれと同じクーロン力(静電気力)によるものです。)。
この時に、周囲の原子の軌道電子を電離したり、励起します。 β- 線の場合、正の電荷を持つ原子核と間にクーロン力(静電気力)による引力が働くため加速度を受け、β- 線は減速されます。減速は運動エネルギーの喪失を意味しますが、代わりにそれに相当するエネルギーの電磁波(制動X線)が放出ことに注意しなければなりません。
つまり、β線が発生すれば、それが遮蔽物によって止められる以上、同時にX線が発生するということです。
β+崩壊の場合は、陽電子が周囲の電子と「対消滅」を起こし、電子2個分の質量に相当するエネルギーが光子として二個放出されます。
β線は、α線よりも高い透過力がありますが、後述の「γ線」の透過力に比べれば遥かに小さいものです。また、ひとつの粒子が持つエネルギーそのものはα粒子に比べてβ粒子は小さいものです。よって、α線によるものと比較すると、よりも広範囲に、そして小さな被害を及ぼします。
原子力発電所で深刻な事故が起きた場合に広範囲に拡散される放射性物質は、α線源となる放射性物質よりも、β線源となる放射性物質の方が遥かに多いものです。
例えば、チェルノブイリの原発事故後、周辺地域で甲状腺ガンの発症率(特に小児甲状腺ガン)が急上昇したことは周知の事実であると認識していますが、ヨウ素131によるβ線が主な原因であると考えられています。
被曝とリスク(ガンや白血病や骨髄腫など)の相関は非常に慎重な疫学・統計学的な取り扱いが必要であり、そう簡単に評価が出来る話ではありません。20年以上も前に起こったチェルノブイリでの事故による被曝とリスクの評価よりも遥かに前の、広島と長崎への原子爆弾の投下による被曝とリスクの評価ですら、今もなお様々な議論・論争が繰り広げられています。
背景には、被曝によるリスクの評価値を可能な限り小さく主張しなければいけない集団と、被曝によるリスクの評価値を何が何でも大きな値としてその危険性を訴えたい集団の終わりなき戦いがあります。それぞれに、思想、信念、利権、政治的な問題、など様々な事情が絡んでいます。
そのような状況の中で、ヨウ素131のβ線による甲状腺の集中的被曝と甲状腺ガンのリスクの上昇は、被曝とガンの関係をどうしても否定したい、あるいは小さく算出したい事情を抱えていた集団ですら唯一認めざるを得なかったとされる、統計上の有為なデータであるとされています。
したがって、当然のことですが、ヨウ素131をはじめとするβ線源となる放射性物質も、可能な限り体内に入れないように心がけなければいけません。なお、被曝についての考え方や、個人に出来る対策は、後に述べます。

                                           
γ線とX線は同じ「電磁波」(であると共に「光子」であるとされている)です。その区別は、発生機構によって分別され、原子核内のエネルギー準位の遷移によるものをγ線、軌道電子の遷移によるものをX線と呼びます。
両者の電磁波の波長(エネルギー)の領域の一部は重なっており、また、発生する機構は異なれど物理的に本質的に同じ電磁波なので、明確な区別があるわけではありません。ただし、一般に、X線よりもγ線の方がエネルギーが高い領域にあります。
γ線はγ崩壊によって発生する電磁波です。放射性核種が崩壊して陽子や中性子の個数が変化し、全体の質量が変化しても、その原子核に過剰なエネルギーが残存している場合があり、そのエネルギーがガンマ線という形態で放出されます。
このガンマ線は原子力発電所従事者個人の被曝量を管理する線量計にも用いられています。また、放射性核種によっては特徴的なエネルギーのγ線を高い確率で放出するものが多く存在し、放射線がどの放射性核種からどれだけ放出されているかを測定するために利用されます。(後に詳しく述べます。)

レントゲンの画像は誰もが見た経験があるものでしょう。レントゲンは、厳重に管理されたX線の照射を利用しています。体がスケスケになって見えるわけですから、その透過力は非常に大きいものと考えるべきです。必要な医療行為などを除けば、γ線やX線を不用意に浴びる事は望ましくありません。放射線が通過すれば、少なからず人体はダメージを受けるわけです。
                                           

中性子線はその名の通り、中性子の粒子線です。中性子は電荷を持たない粒子であるため、先のβ線(例えば、負の電荷を持つ電子)のように原子核の陽子による正電荷からのクーロン力によって減速される、などということはありません。
非常に高いエネルギーを持って凄まじいスピード(運動エネルギー)で飛びだし、原子核にぶつかるたびにその運動エネルギーを失います。決して一度ぶつかれだけで止まるわけでなく、周りの原子(分子)の熱運動と熱平衡状態になる(この状態の中性子を「熱中性子」と呼ぶ)まで進み続ける、とても厄介なものです。他の原子核にぶつかることでその原子核の崩壊や核分裂を誘起したり、放射性核種でなかったものを放射性核種に変えてしまうこともあります(中性子照射による「放射化」と呼ばれます)。
茨城県東海村で起きたJCO臨界事故で死亡された方々が致死量を浴びた放射線は、主にこの中性子線です。大量の中性子線を浴びた作業員の方の細胞の染色体はことごとく破壊されており[6][7]、生物が生きていく為に必要な細胞分裂の「設計図」である染色体を完全に失ったことで、その体は時の流れと共に崩壊していきました。
この事故は完全な「人災」でした。心から哀悼の意を表します。
[3]Geiger-Nuttall law
[4]八木浩輔「原子核と放射」朝倉書店(1980)
[5]Ervin B. Podgršak Modes of Radioactive, RADIATION PHYSICS FOR MEDICAL PHYSICISTS, Biological and Medical Physics, Biomedical Engineering, 2010, 475-521
[6]「被曝治療83日間の記録 東海村臨界事故」 岩波書店
[7]NHK放送 NHKスペシャル「被曝治療83日間の記録~東海村臨界事故~」 2001年放送
実は、この中性子線こそが原子力発電が出来る事の要なのです。次の「核分裂」の話に移りましょう。

質量数

2)に移る前に…
ここで、「ヨウ素131(131I)」、「セシウム137(137Cs)」などにおける131や137といった数字の意味や見方を確認しましょう。
先ず、全ての原子には、「原子番号」という数字が割り当てられています。原子番号は、それぞれの原子について、その原子核の中にある陽子の個数です。
次の表は「周期表」というものです。

 18
1
















2
3
4










5
6
7
8
9
10
11
12










13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
*1
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
*2
104
105
106
107
108
109
110
111
112
113
114
115
116
117
118

57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
103

表より、ヨウ素(I)の原子番号は53、つまり、ヨウ素の原子核にある陽子は53個、
セシウム(Cs)の原子番号は55、つまりセシウムの原子核にある陽子は55個です。
では、ヨウ素131やセシウム137などに見られる131や137という数字は何でしょうか?
答えは、原子核を構成する陽子と中性子の個数を単純に足し合わせたものです。これを「質量数」と呼びます。

つまり、ヨウ素の原子番号が53ですから、ヨウ素131と言われれば、陽子が53個、中性子が78(=131-53)個により構成される原子核からなるヨウ素の事を指します。
同様にして、セシウム137と言われれば、陽子が55個、中性子が82(=137-55)個により構成される原子核からなるセシウムの事を指します。
例えば、一口にヨウ素(陽子が53個)と言っても、原子核を構成する中性子の数が異なるものがたくさん存在します。同じ原子番号(=陽子数)を持つ原子において、中性子の個数(あるいは質量数で考えても良い)が異なるものを「同位体」と呼びます。
同位体には、「放射性同位体」と「安定同位体」があります。ヨウ素の場合、天然の安定同位体は質量数が127のヨウ素のみであり[2]、その存在比は1(100%)です。
今回の原子力発電所の事故で大騒ぎになっているヨウ素131はご存知の通り、放射性同位体です。